「離婚時にちゃんと決めておけば良かった……」と、後悔に苛まれてはいませんか?
例えば、2020年に離婚したBさんは、当時元夫との関係が険悪になるのを恐れて養育費の話し合いを避けてしまいました。
離婚後しばらくは貯金を切り崩しどうにか生活できていたものの、子どもの保育園代や予防接種代が重なり生活は徐々に逼迫。
Bさんは焦りに駆られ、離婚から2年経ってから初めて元夫に養育費を求めました。
しかし、結果は無情でした。
家庭裁判所の調停で「離婚時に取り決めをしなかった養育費を遡って請求するのは難しい」と告げられたのです。

なぜ取り決めなしだとさかのぼり請求が難しいのでしょうか?
実務上、養育費の支払い開始時期は「請求したときから」と考えられており、離婚後に何年も放置していた期間については「これまで養育費なしでも生活できていたではないか」という理屈が働いてしまいます。
過去に養育費がなくても子どもの生活が成り立っていた事実がある以上、急に「まとめて払え」というのは元夫(義務者)にとって酷だ、というのが家庭裁判所の考え方なのです。
Bさんの場合も、「離婚後しばらく養育費なしでやってこられた実績」があると見なされ、調停委員から渋い顔で首を振られました。
取り決めなし離婚のツケはこのように重くのしかかります。
過ぎてしまった時間を取り戻すことは、現状ではとても困難なのです。
とはいえ、完全に希望がないわけではありません。

特に、父親が子を認知しておらず請求できない事情があった場合などは例外です。
例えば認知訴訟で父子関係が確認された場合、判例では認知時点ではなく出生時にまで遡って養育費を支払うよう命じられた例もあります。
私の担当したCさんも、未婚シングルマザーとして長年子の父親に認知を求め、ようやく認知が成立した際に出生時からの養育費を一部受け取ることができました。
そのときCさんは「ようやく報われた…」と号泣。
異例の成功例ではありましたが、やむを得ない事情があれば、裁判所も子どもの利益のため考慮してくれる可能性があります。
とはいえ、これは本当に稀なケースです。
「取り決めなしの場合に遡って養育費を請求できた例はほとんどない」のが現実でしょう。

取り決めした養育費は過去に遡って請求可能です
一方で、「取り決めはしたのに払われていない!」というケースも後を絶ちません。
約束を反故にされた怒り、そして「どうしたらいいの?」という困惑…。
こちらをご覧になっている方で、毎月通帳を確認してはため息をついている方もいるのではないでしょうか?
例えば、Dさんは離婚時に公正証書で月4万円の養育費支払い契約を交わしました。
しかし元夫は最初の1年で支払いをストップ。
Dさんは苛立ちと悲しみで元夫に連絡するも、「今月は無理」「来月まとめて払う」と言い訳ばかり。
そのうち連絡もつかなくなり、未払いは5年分・総額240万円にまで膨れ上がりました。(4万円×12か月×5年=240万円)

このように養育費の未払いが続く現実は、決して珍しくありません。
データがその深刻さを語っています。
厚生労働省の調査によれば、離婚後に養育費の取り決めをしている母子家庭でも「現在も受け取っている」ケースはわずか57.7%しかありません。
つまり、約4割は取り決めがあっても支払われていないのです。
Dさんのように約束が反故にされるシングルマザーが後を絶たないことに、私としても怒りと無力感を覚えずにはいられません。
それでも母親たちは必死に仕事を掛け持ちし、何とか子どもを育て上げようとしています。
私はそんな相談者と向き合う度、「どうか一人で抱え込まないで!」と心で叫んでいます。

一緒に対策を考えていきましょう。
まず押さえておきたいのは、未払い養育費は法的には債務(借金)と同じだという点です。
取り決めさえしてあれば、支払われていない過去分も当然に請求する権利があります。
Dさんも「過去の未払い分をまとめて請求できるの!?」と目を丸くしていましたが、もちろんできます。
しかしながら、ここにも落とし穴が…。請求には期限があるのです。
養育費の支払い請求権には消滅時効が設定されており、一定期間が経つと法的に請求できなくなってしまいます。

具体的には、家庭裁判所の調停や審判・裁判で決まった養育費なら10年、夫婦間の合意(公正証書含む)で決めた養育費なら5年です。
Dさんの場合、公正証書はあっても所詮当事者同士の合意なので時効は5年。
残念ながら5年以上前の未払い分は請求できない可能性が高いと伝えると、Dさんは愕然として言葉を失いました。
「もっと早く相談すれば良かった…」と肩を落とすDさんの姿が、今でもまぶたに焼き付いています。
このように、取り決めがあっても悠長に構えてはいられません。
「未払いが発生したら早めに動く」これが鉄則です。

まず未払いが判明した時点で内容証明郵便を送り、相手に正式に支払いを求めましょう。
これは、時効の進行をストップさせる意味もあります。
内容証明で督促すると、その時点で時効が6か月リセットされます。
「〇年〇月から〇年〇月までの養育費○○円が未払いです。○月○日までに指定口座に支払ってください」と事実を淡々と通知します。
私が代理で送ったケースでは、滞納者がシュンとなってすぐ振り込んできた例もありました。
「恥をかかされたくない」という心理が働くのかもしれませんね。

法律は権利者の味方ですから、一度取り決めた養育費が支払われないなら、裁判所を通じて相手の財産や給与を差し押さえることができます。
実際、私がサポートしたEさん(福岡市、30代)は、元夫の会社に対し給与差押えを申し立てました。
すると元夫は観念して「これ以上は困る!」と未払い分を一括清算し、その後の支払いも滞らなくなりました。
泣き寝入りしなかった勝利例と言えるでしょう。

諦めないで:過去の養育費を取り戻すために今できること
ここまで読んで、「やっぱり過去分は無理なの?」と落胆している方もいるかもしれません。
それでも諦めないでください。
過去にもらえていない養育費を少しでも取り戻すために、今からでもできることがあります。
まず、ダメ元でも相手に交渉してみることです。
過去の養育費について家庭裁判所は消極的ですが、交渉自体は何ら違法ではありません。
元夫が応じて任意に支払ってくれるなら、何の問題もないのです。

「ダメで元々」の精神で、まずは連絡を取ってみましょう。
ただし、説得のコツがあります。
ただ感情的に「払って!」と責めても、相手も身構えてしまうでしょう。
そこで有効なのが、具体的な数字とエビデンスを示すことです。
例えば、離婚後にあなたが立て替えた子どもの学費や塾代、医療費の総額を計算して伝えてみてください。
可能なら領収書や通帳の写しなど裏付け資料も用意します。
「この3年間で○○万円を子どものために支出しました。あなたにもその一部を負担する義務があります」と冷静に話せば、相手も現実を直視せざるを得ません。

相手の良心に訴える一手ですが、具体的な数字は心に響きます。
話し合いで埒が明かない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることを検討しましょう。
取り決めが無かった場合でも、調停を申し立てた月から養育費支払いが開始されるのが通常です。
過去分は難しくても、「これ以上遅らせない」ことが何より重要です。
思い立ったが吉日、早めの行動でこれから先の養育費を確保しましょう。
調停申立てには、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に収入印紙(子1人につき1,200円)と申立書類一式を提出します。

また、既に取り決めがあるのに支払われていない場合は、強制執行も視野に入れましょう。
給与差し押さえ以外にも、相手名義の銀行預金、不動産などを差し押さえる方法があります。
最近では、自宅に居ながらオンラインで強制執行を申し立てる電子手続きも一部導入され、利便性が増しています。
「そこまでやるのは気が引ける…」という方もいるかもしれません。
しかし、それで子どもの生活が守れるなら、ためらう必要はありません。
養育費は子どもの権利でもあります。
あなた一人のわがままではないのですから、堂々と権利行使していいのです。
最後に、専門家への相談も強くお勧めします。
養育費問題に詳しい弁護士であれば、適切な金額計算から交渉、調停、強制執行まで一貫してサポートできます。
私自身、「もっと早く相談していれば…」と悔やむ依頼者を何人も見てきました。

きっと明るい展望が開けるはずです。
希望と提案:未来を見据えて歩もう
ここまで読んでくださったあなたへ、未来志向のメッセージを送らせてください。
過去にもらえなかった養育費を完全に取り戻すことは簡単ではないかもしれません。
それでも、あなたとお子さんの未来にはまだ多くの希望が残されています。
事実、国もこの問題に立ち向かい始めました。
令和6年の民法改正では、離婚時に養育費の取り決めがなくても一定額の「法定養育費」を請求できる制度が創設される予定です。
これは子どもの最低限の生活費を国が定める仕組みで、今後「取り決めなし=ゼロ」という事態を防ぐことが期待されています。
さらに養育費の請求権には、先取特権(優先的に回収できる権利)も付与される方向です。
時代はゆっくりと、しかし確実に変わろうとしています。
これまで頑張ってきたあなたの努力は、決して無駄にはなりません。
過去を嘆くだけでなく、「今から何ができるか」を一緒に考えてみましょう。
子どもの未来を守るために行動するあなたは、決して独りぼっちではありません。
