離婚後の「共同親権」について弁護士が分かりやすく解説

離婚後の「共同親権」について

離婚後の共同親権とは?

離婚後の「共同親権」とは、一言でいえば、父母が離婚後も一緒に子どもの親権を持つという制度です。

現在の日本法では、婚姻中の夫婦は共同で親権を行使できますが、離婚すると必ず父か母どちらか一方を親権者に指定しなければなりません。

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これを「単独親権」といいます。

そのため、離婚と同時に片方の親は法的な親権を失い、子どもの重要な意思決定から外れてしまいます。

どうして私だけが?」と感じた方もいるでしょう。

実際、日本は長らく離婚後の共同親権を認めない少数派の国でした。

しかし2024年5月離婚後も共同親権を選択できるよう民法が改正され、遅くとも2026年5月までに施行される予定です。

世界的に見ても、アメリカ・イギリス・中国など圧倒的多数の国々が離婚後の共同親権を認めており、日本でもようやく制度が追いつく形になります。

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では、共同親権になると具体的に何が変わるのでしょうか?

一番のポイントは子どもに関する重要事項の決定を、離婚後も父母が共同で行う点です。

例えば子どもの進学先(学校選び)や住む場所の変更(転居)など、人生に大きく影響する事柄は両親で話し合って決める必要があります。

東京都在住のAさんも、「娘の高校進学先を元夫と協議しなくてはいけないなんて…」と戸惑いを隠せませんでした。

それでも日々の身の回りの世話や習い事などの「日常の行為」は、基本的に今まで通り主たる監護親が判断できます。

さらに緊急の医療措置(急迫の事情による手術など)が必要な場合は、どちらか一方の親権者が単独で判断・実行できるので安心です。

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つまり、日常的な子育てのリズムは維持しつつ、進路や居住地変更といった重大な局面では両親の合意が求められるということですね。

もし意見が割れたらどうなるの?」と不安に思うかもしれません。

それでもご安心ください。

協議で合意できない場合は、家庭裁判所が仲裁し、最終的に共同か単独か判断する仕組みになっています。

言い換えれば、一方の親が強引に物事を決めることはできず、第三者の目で子どもの幸せに沿った結論を出してもらえるのです。

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共同親権はあくまで子どもの利益のための制度であり、決して親同士の力関係を競う場ではありません。

共同親権のメリット・デメリットについて

共同親権の導入には期待の声も不安の声もあります。

わたし自身、現場で様々な親御さんの喜びと戸惑いに触れてきました。

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それらを踏まえ、ここでは共同親権のメリットとデメリットを見ていきましょう。

共同親権のメリット – 協力して子育て、子どもも安心

共同親権のメリット

共同親権には、様々なメリットがあると指摘されています。

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第一に、離婚時の親権争いを回避できることが挙げられます。

これまで離婚の際には「どちらが親権者になるか」で激しく対立し、調停や訴訟にまで発展するケースも珍しくありませんでした。

実際、ある依頼者のBさん(35歳・東京都)は、元夫と親権をめぐって半年以上も法廷で争い、幼い息子さんの心に大きなストレスを与えてしまったと打ち明けました。

早くパパとママの喧嘩が終わってほしい」という子どもの願いを前に、大人たちは言葉を失いました。

しかし共同親権が選べるなら、そもそもの親権者争いを避けやすくなります。

父母両方が親権を持てると分かれば、意地の張り合いによる長期戦を避け、スムーズに離婚協議をまとめられる可能性が高まるでしょう。

親同士の対立が早期に解決すれば、子どもの精神的負担も軽減されます。

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第二に、離婚後も両親が協力して子育てできる点も見逃せません。

共同親権の下では、子どもは離婚後も定期的に別居親と会ったり連絡を取ったりできます。

ママとパパ、両方に見守ってもらえている」という安心感は、子どもの心の安定につながります。

実際、面会交流がスムーズに行われれば子どものストレスは大幅に減るという調査結果もあります。

これまでも、共同親権的な協力関係を築けた元夫婦の子どもは、離婚後も明るさを取り戻したといった声もあります。

母親のCさん(40歳・大阪)は「前夫も父親としての責任を果たしてくれるので、娘も寂しがらず助かっています」と微笑みます。

両親が手を取り合って子育てする姿は、子どもにとって何よりの安心材料なのです。

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第三に、養育費(子どもの扶養費用)の未払いリスクが減る可能性も指摘されています。

共同親権であっても養育費の支払い義務自体は従来と変わりません。

しかし「自分も親権者だ」と実感することで、親としての責任感が高まり、結果として養育費をきちんと支払う父親が増えるのではないかと期待されています。

実際、日本では離婚後の養育費不払いが社会問題となっていますが、父母双方が親権を共有することで「自分の子を最後まで育て上げるんだ」という意識が芽生えれば、経済的サポートも安定するでしょう。

ちゃんと払ってくれるだろうか…」と心配していたDさん(28歳・福岡)も、元夫が積極的に子育てに関わるようになってからは養育費の振込が遅れたことは一度もないそうです。

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共同親権が父親の当事者意識を高め、シングルマザーの経済的不安を和らげる効果も期待できるのは朗報ですね。

共同親権のデメリット – 対立するリスクとその懸念

共同親権のデメリット

もちろん良いこと尽くめではありません。

共同親権には克服すべき課題やデメリットも存在します。

本当にうまく協力できるの?」という疑問の声に、現場の経験から正面から向き合ってみましょう。

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最大の懸念は、両親の教育方針や判断が対立してしまい、物事を決められなくなるリスクです。

単独親権であれば親権者である母親が一存で学校や習い事を決められます。

ですが共同親権におなると、常に父母の合意が必要です。

例えば子どもの進路を巡って「私立に行かせたい母」と「公立で十分だという父」が衝突すると、平行線のまま子どもの大事な進路が決まらない恐れがあります。

意思決定が難航すると、そのあいだ子どもの心は宙ぶらりんです。

これでは本末転倒ですよね。

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さらに深刻な問題として、DV(家庭内暴力)やモラハラから逃れられないリスクも指摘されています。

単独親権であれば離婚後は加害者だった元配偶者と関わらずに済みますが、共同親権だと子どものことを通じてどうしても連絡を取らざるを得ません。

こうした懸念に対し、今回の改正法では、DVや虐待が認められる場合には共同親権を許さず強制的に単独親権にする規定が設けられました。

つまり、裁判所が「このケースはDVあり」と判断すれば、その家庭では共同ではなく一人の親を親権者に指定することになります。

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付け加えると、どの程度の暴力・モラハラをもってDVと認定するか、その基準や証拠の集め方には課題が残ります。

国会でも「子どもの安全を守るため、行政や福祉機関の連携強化が必要だ」という附帯決議がなされ、施行までに支援体制を整備する努力が続けられています。

被害経験のある方にとっては不安が尽きない問題ですが、法律上は配慮が盛り込まれていますので、「自分と子どもの身は必ず守られる」という点は強調しておきたいです。

共同親権が認められないケースとは?

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離婚後の共同親権が子どもの利益を損なうと考えられる場合には、単独親権としなければならないとされています。
以下に該当する場合は、単独親権としなければなりません。
  • 父親または母親が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
  • 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
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したがって、以下のようなケースでは、単独親権が認められる可能性があると考えられます。
  • 親の一方から子どもへの虐待がある
  • 親の一方から他方へのDVがある
  • 親同士の仲があまりにも悪く、子育てに関する意思の統一が期待できない場合
  • 親同士の住む場所が遠いために、同居していない親と子の交流が困難な場合

共同親権の課題と乗り越え方

メリット・デメリットを踏まえると、「本当に共同親権なんてうまくやっていけるの?」と不安になるかもしれません。

それでも、私は工夫次第で乗り越えていけると感じています。

ここからは、共同親権にまつわる具体的な課題とその解決策・心構えについて見ていきましょう。

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感情がぶつかり合う局面でも慌てずに調整できるヒントをお伝えします。

意思決定権の所在 – 対立をどう解消する?

共同親権では子どもの重要事項を共同で決めますが、もし意見が割れたらどう解消するかが大きなテーマです。

教育方針や医療判断、進学先ひとつ取っても、親の考えが違うことは往々にしてありますよね。

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それに備えるために有効なのが事前の取り決め(ルール作り)です。

離婚協議書や公正証書の中で、「教育方針について意見が対立した場合は第三者機関の調停を利用する」「医療面は日常的なことは母が決め、重大な手術の場合は父母双方の同意を必要とする」など、あらかじめ話し合いの手順や優先権の分担を決めておくことができます。

もしもの衝突に備えてルールを決めておくこと」、これが最大の予防策でしょう。

とはいえ、どれだけ準備しても想定外の事態は起こり得ます。

その場合、家庭裁判所や調停機関を活用することも恐れないでください。

先ほども触れたように、最終的には第三者の判断を仰ぐ仕組みがあります。

話し合いが平行線になったら無理に消耗戦をせず、早めに専門家を交えた調停を申立てるのも賢明です。

自分たちだけで解決しなきゃ」と抱え込む必要はありません。

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むしろ子どもの時間は待ってくれませんから、こじれる前にプロの手を借りる柔軟さも、共同親権を円滑に続けるコツと言えるでしょう。

子どもの居住地 – 引っ越しや環境の変更はどう決める?

シングルマザーの皆さんにとって、子どもの生活環境を安定させることは何より大事ですよね。

共同親権下でも、子どもがどこに住むか(誰と暮らすか)は極めて重要な問題です。

一般的には、離婚時に子どもの主たる生活拠点(居住地)を決めることになります。

多くの場合では母親と一緒に暮らし、父親は定期的に面会交流をする形をとるでしょう。

ただ、共同親権では父母双方が法的な親権者ですから、大きな引っ越しや転校を伴う環境の変更は双方の合意が必要になります。

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お母さんが仕事の都合で遠方へ転居したい場合、元夫の同意がないと子どもを連れて引っ越すことは難しくなるかもしれません。

居住地の変更はデリケートな問題ですが、子どもの利益と相手の立場双方に配慮した調整がカギになります。

どうしても折り合えない場合は、これも調停や審判で解決を図ることになるでしょう。

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その際は「子どもの生活の安定」が最優先されますので、転校による影響や別居親との交流頻度など客観的な材料を示して判断してもらうことになります。

教育・医療の合意 – 日常と緊急時の線引きを明確に

先ほども触れましたが、教育や医療の方針については共同親権で継続的に協議が必要になります。

しかし全てを話し合うのは現実的に大変ですから、何を共同で決めて、何を各自の裁量に委ねるか、線引きをはっきりさせておくことが大切です。

例えば教育面では、「学校選択や受験方針は共同決定」「日々の宿題の見守り方や塾選びは監護している母親に一任」など具体的に役割分担を決められます。

医療面でも、「予防接種や定期検診は母の判断で進める」「手術など生命に関わる治療は父母で協議する」といった具合です。

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こうしておけば、普段はお母さんが主体的に子どものケアをしつつ、本当に重要な場面だけ父親にも参加してもらう形が取れます。

それでも急な緊急事態は起こり得ます。

子どもが事故に遭い今すぐ手術が必要、といった場面です。

そんな時は迷わずその場にいる親が即座に判断して構いません。

法律上も「急迫の事情」がある場合には「一方の親が単独で親権を行使できる」とされています。

後で「なんで勝手に決めたんだ」と責められないか不安かもしれませんが、子どもの命や健康がかかった場面では躊躇しないでください。

事後報告でも、子どもの無事が最優先なのは元配偶者も理解してくれるはずです。

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普段はルールを尊重し、緊急時は柔軟に——このメリハリを共有しておけば、いざという時もうろたえずに済みます。

元配偶者との関係 – 心の折り合いのつけ方

共同親権を続けるには、どうしても元夫とのコミュニケーションがついて回ります。

顔も見たくない相手とこれからも関わるなんて…」という気持ちは、ごもっともです。

それでも子どものためと割り切るしかない部分もあるでしょう。

心理的負担を軽減する工夫として、連絡手段や頻度をルール化することをおすすめします。

直接会うと感情的になってしまう場合は、「連絡はメールやチャットアプリ」と決めたり、「週一回だけ情報交換」する、といった形です。

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ビジネスライクでも構わないので、子どもの予定連絡や学校行事の報告など最低限の交流を淡々と続けることが、結果的に子どもの安定につながります。

また、第三者に入ってもらうのも有効です。

共通の知人や親族、あるいは民間のコーディネーターなど、中立の立場の人がいるとクッションになります。

最後に心構えとしてお伝えしたいのは、「完璧に協調しよう」と思いすぎないことです。

離婚に至ったお二人ですから、意見が違って当たり前、合わないのも当然です。

共同親権とはいえど、所詮は「別々の道を歩む大人が子どものために協力する」関係にすぎません。

ビシッと息の合った共同作業を夢見ると、現実とのギャップに苦しむかもしれません。

それよりも、「凸凹でも子どものためにできる範囲で協力しよう」くらいの肩の力を抜いた姿勢が長続きのコツです。

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多少意見のズレがあっても、お互い子どもを想う気持ちは同じだと信じて、適度に妥協し合う——それくらいでちょうど良いのではないでしょうか。

よくある質問: シングルマザーの疑問に答えます

最後に、皆さんから寄せられることの多い共同親権に関する疑問をQ&A形式で簡潔にまとめます。

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私のケースはどうなるの?」という具体的な悩みにお答えします。

Q1: すでに離婚して単独親権になっています。
新しい共同親権制度が始まったら、自動的に共同親権に変更されますか?
弁護士
A1: いいえ、自動的には変更されません。

新制度は遡及適用されないため、過去に離婚して決まった親権者はそのまま据え置かれます。

ただし、単独親権に不満がある場合は家庭裁判所に申し立てて、共同親権への変更を求めることも可能です。

その際、子どもや元配偶者への悪影響が懸念される場合には変更は認められません。

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要は、「どうしても共同で育てたい」事情があれば裁判所に相談できるものの、子どもの幸せ第一で判断されるということですね。

Q2: 私が再婚する予定ですが、再婚相手と子どもとの関係はどうなりますか?
共同親権に影響ありますか?
弁護士
A2: 再婚相手が子どもと養子縁組をするケースでは、現行法でも養親(再婚相手)と実親の共同親権状態が生じます。

例えばお母さんが単独親権者でお子さんを育てている中、新たなパートナーと養子縁組した場合、お母さんと養父が共同で親権を持つ形になるのです。

法律上、未成年の養子は養親の親権に服するため

改正後はこの点が明文化され、養親と実親(再婚した側)の共同親権になる予定です。

注意点として、お子さんが15歳未満の場合、もう一方の実親(元夫)の同意が養子縁組に必要になります。

共同親権だと父母両方の承諾が要るため、もし元夫が再婚に反対で同意が得られない場合は家庭裁判所に申立てて片方の親の承諾だけで養子縁組を認めてもらう手続をとることになります。

弁護士
再婚と共同親権が絡むと少し複雑ですが、専門家に相談しながら円満なステップファミリーを築いてくださいね。

Q3: 共同親権になったら養育費はどうなりますか?
減額されたり貰えなくなったりしませんか?
弁護士
A3: 養育費については共同親権でも従来と同じです。

子どもを主に養育している親(多くは母)が受取人、別居している親(多くは父)が支払う構図は変わりません。

金額の算定方法も現行の算定表などが引き続き使われる見込みで、大幅な見直しは予定されていません。

むしろ先述の通り、共同親権によって父親の意識が高まれば未払いが減る可能性もありますので、適正な養育費を受け取りやすくなると期待していいでしょう。

万が一支払いが滞るような場合でも、法的には強制執行など従来通りの対処が可能です。

弁護士
共同親権だから支払わなくていいでしょ?」という言い分は通りませんのでご安心ください。

他にも細かな疑問は尽きないと思います。

例えば「子どもが拒否したら共同親権は難しい?」「名字や戸籍はどうなる?」などケースごとに考慮すべき点があります。

すべては触れられませんでしたが、不安な点は一人で抱え込まずに専門家へ相談してください。

弁護士
疑問を一つ一つ潰していけば、きっと心配も軽くなるはずです。