「昨日、元夫から“自己破産する”と連絡が来ました。もう養育費は諦めるしかないのでしょうか…?」
2023年11月、東京在住の松本さん(仮名・38歳)は涙ながらにそう私に尋ねました。
松本さんは離婚して2年、小学生の娘さんと二人暮らしです。

「養育費も借金と一緒にゼロになるのでは?」という困惑と、「娘にこれからどうやって十分な生活をさせればいいのか」という絶望で、彼女の表情は暗く沈んでいました。
さて、突然の破産宣告に直面したとき、あなたなら何を考えるでしょうか?
おそらく真っ先に「もう養育費はもらえないのでは?」という不安が頭をよぎるはずです。
その不安は当然の心理です。
借金が帳消しになる自己破産で、子どものためのお金まで消えてしまうのか――多くの方がここで絶望感に襲われます。
結論から言えば「自己破産しても養育費の支払い義務は消えません。」

養育費は非免責債権なので除外
法律は子どもの権利をしっかり守っています。
自己破産をしてもなお支払わなければならないお金のことを「非免責債権」と言い、養育費はその代表例です。
破産法253条1項でも、養育費は免責(借金の帳消し)の対象から除外されると明記されています。

「借金はゼロになっても、子どもを扶養する義務はゼロにならない」――法律はそう定めています。
この事実を知ったとき、松本さんの顔には安堵の色が浮かびました。
「じゃあ、養育費を諦めなくていいんですね?」とパッと表情が明るくなったのを思い出します。
そうです、たとえ相手が破産しても、取り決められた額は原則として毎月請求できます。

法律上、このお金は他の借金とは異なり、消えてなくならないのです。
ただし、ここで「権利がある=すぐにお金がもらえる」と単純に考えるのは禁物でしょう。
権利が守られているとはいえ、現実に元夫に支払うお金がなければ、絵に描いた餅になりかねません。

養育費くの支払いを確保するための対策
権利があると分かっても、「本当に支払ってもらえるの?」という不安は残ります。
では、そのお金を確実に受け取るためには具体的に何ができるのでしょうか。

減額の交渉や調停に向き合う
元夫が経済的に追い詰められ、どうしても従前の金額を支払えない場合、相手から支払い額の減額を求められることがあります。
実際、自己破産後に「収入が激減したから」と月5万円の約束を3万円に減らしたいと申し出られたケースもありました。
しかし、安易に「仕方ない」と応じる必要はありません。
先方に給与明細や家計の状況を示してもらい、本当に支払い能力がないのか慎重に見極めましょう。
場合によっては家庭裁判所で「養育費減額調停」を起こされることもあります。

強制執行の準備
相手に収入や資産があるのに支払いを拒んでいる場合、法的手段でそのお金を取り立てることが可能です。
公正証書や調停調書、裁判所の判決書など、養育費の債務名義があれば、裁判所に強制執行(差し押さえ)を申し立てることができます。
例えば、元夫が会社員なら給与の一部を差し押さえて、未払い分に充当させることもできます。
私の依頼者でも、2022年に元夫の銀行口座を差し押さえ、滞納分60万円を回収できたケースがありました。

時効に注意し早めに行動
「そのうち払ってくれるかも…」と先延ばしにするのは危険です。
未払い分には時効があり、権利を放置すると受け取れなくなるおそれがあります。
特に裁判所で取り決めをしていない(協議離婚で口約束の)場合、5年で時効となっています。
裁判所や公正証書で取り決めた場合でも10年を過ぎれば請求が難しくなります。
例えば、毎月3万円の支払いが5年間滞ると、3万円×12か月=36万円/年ですから合計180万円もの大金になります。
180万円が丸ごと消えてしまったら、お子さんの教育資金に大打撃でしょう。
実際、私は過去に「時効なんて知らずに放っておいたために、約200万円の未払い分を泣き寝入りした」という依頼者の後悔を目の当たりにしました。

結論
元夫が自己破産したと聞いても、どうか絶望しないでください。
法律上、その支払い義務は消えませんし、あなたには堂々と請求できる権利があります。
だから、諦める必要は一切ないのです。
もちろん現実問題として、すぐに満額を取り戻すのは簡単ではないかもしれません。
しかし、私が目の当たりにしてきたように、適切な手続きを踏めば未払い分を取り立て、将来分も支払ってもらえる可能性は十分にあります。
子どものために戦うあなたの姿は決してわがままではありませんし、恥じることもありません。
むしろ、お子さんへの愛情と責任感の表れでしょう。
これからは、ぜひ前を向いて行動を起こしてください。
私はあなたの勇気ある一歩を全力で応援します。

一緒に、お子さんの明るい未来を掴み取りましょう。