養育費の「特別費用」について弁護士が分かりやすく解説

養育費の特別費用

子どものために突然高額な出費が発生し、「これは養育費に含まれないから払わない」と元パートナーに言われてガックリ…なんて経験はありませんか?

シングルマザーやシングルファザーにとって、子どもを育てる費用の不安は常につきまといます。

それでも、いざ高額な請求書がドーンと突きつけられると、心臓が凍る思いをしてしまうものです。

私も弁護士として養育費の現場に携わる中で、そうした相談に触れ、「何とか力になりたい」と強く感じています。

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そこでこちらでは、養育費の「特別費用」とは何か、そしてその負担を相手に求める方法について、私の経験も交えながら分かりやすく解説します。

慌てないで!「特別費用」とは予期せぬ大きな出費の救済策

ふと子どもの予期せぬ出費に直面したとき、「こんな高額、どうしよう..」とアタフタしてしまうかもしれません。

養育費は通常、養育費算定表を基に決められます。

参考 養育費の算定表について詳しくはこちら

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算定表には子どもの衣食住や教育費、医療費など標準的な養育費用が織り込まれています。

しかし、公立高校までの平均的な学費や通常の医療費はこの算定表でカバーされる一方、私立高校や大学の学費、予測できない高額な治療費などは考慮されていません。

こうした「養育費の内訳に含まれない」費用こそが「特別費用」と呼ばれるものです。

では、特別費用とは一体どんな役割を果たすのでしょうか。

その答えはシンプルです。

特別費用は、子どものための一時的に大きな出費を親同士で分担するための仕組みなのです。

毎月の養育費だけでは賄えない突発的な費用が発生した場合、そのままでは子どもの生活の安定が揺らいでしまうかもしれません。

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そんなとき特別費用を活用すれば、夫婦で急な出費を協力して乗り越えることが可能です。

ゾッとする高額医療費…それも「特別費用」で請求可能

子どもが大きなケガをしたり重い病気にかかったりして、予想外に高額な医療費が必要になったらどうしますか?

ゾクッとするような治療費の額に、親として不安で眠れなくなる夜もあるでしょう。

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そのような高額な医療費こそ、特別費用として相手に負担を求められる可能性が高いのです。

実際、風邪や軽い病気の診療費程度であれば、算定表に含まれる「標準的な医療費」の範囲内とみなされ、追加請求はできません。

しかし、子どもが骨折で手術を受けることになり数十万円の費用がかかった場合や、長期入院が必要になった場合では事情が違います。

そうした大きなケガ・病気の治療費は、算定表の想定額を超えるため、特別費用として養育費に上乗せして請求できる可能性が高いのです。

例えば、お子さんの手術費用50万円を巡り元夫から「養育費に含まれている」と拒否されたケースでは、交渉の結果その半額を特別費用として負担してもらう合意を得られた例があります。

さらに裁判例でも、歯列矯正の費用眼鏡代といった医療関連費用について、特別費用への算入が認められた例があります。

大阪高等裁判所平成18年12月28日決定では、子どもの歯の矯正費用や視力矯正用の眼鏡代も特別費用として認められました。

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一見ぜいたく品に思えるかもしれませんが、子どもの健やかな成長に必要と判断されれば、こうした費用も相手に協力を求める余地があるのです。

私立高校・大学の学費も特別費用で分担?

子どもの将来のためには教育も妥協できません。

しかし、私立高校や大学となると入学金や学費はドーンと高額になりがちで、その請求書に親が青ざめる場面もしばしばです。

離婚時に取り決めた養育費は公立高校までの標準的な教育費しか織り込まれていないため、私立や大学の費用が発生すると「こんな高い学費、約束にないよ」とトラブルになるケースもあります。

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では、こうした進学費用は特別費用として追加請求できるのでしょうか?

結論から言えば、場合によっては可能です。

子どもが私立学校へ進学することを、支払う側の親(非監護親・義務者)が、あらかじめ承諾していた場合には、その私立学校の学費を特別費用として負担させることができます。

この承諾は明示的なものに限らず、黙示の了承でも構いません。

例えば離婚前に夫婦で「子どもは私立高校に行かせよう」と話し合っていたようなケースでは、黙示の了承があったと認められることがあります。

また、義務者の同意がない場合でも、義務者の収入や学歴・社会的地位を考えて「この家庭なら私立進学は不合理ではない」と言える場合には、裁判所が養育費への学費加算を認めることが多いのです。

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大学進学についても考え方は似ています。

算定表には大学の学費も含まれていないため、もし子どもが大学に進学すればそれは大きな出費になります。

義務者が「大学進学も仕方ない」と同意していた場合や、同意までなくとも収入状況から見て大学進学が特別無理のない範囲であれば、大学の学費も特別費用として請求できる可能性があります。

実際、2015年4月22日の大阪高等裁判所の事例では、子どもが私立大学に通うケースで、非監護親に公立大学の学費相当分の1/3を負担させる判断が示されました。

離婚前に「国立大学も視野に高校を選んでいた」という家庭の事情が考慮され、「離婚していなかったとしても大学費用の一部は親が負担しただろう」という観点からの判断です。

一方で、相手が私立進学に強く反対していたケースでは、裁判所が私立大学の学費負担は認めない判断を下した例もあります。

このように、進学費用を巡る判断はケースバイケースであり、親の合意状況や経済状況によって変わり得ます。

とはいえ、「勝手に高い学校に行かせたのだから払わない」という一方的な主張が全て通るわけではありません。

子どもの教育は夫婦双方の責任でもあります。

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相手が渋っても、社会通念上妥当な範囲の教育であれば特別費用として協力を求める価値は大いにあるでしょう。

特別費用の金額と負担割合の決め方

では、特別費用として請求できるとなった場合、具体的にいくらを相手に求められるのでしょうか?

金額の決め方には大きく2通りのアプローチがあります。

一つは「夫婦間の自由な合意で決める方法」、もう一つは「収入割合に応じた按分で計算する方法」です。

まず前者についてですが、特別費用の内容や金額、負担割合、支払いタイミング等は、夫婦間の話し合いで自由に決めて構いません。

特別費用には毎月の養育費のような相場や算定表が存在しないため、「発生した費用は半分ずつ出そう」「○○円までは監護親が負担し、それを超えたら折半しよう」など、当事者同士が納得できる形で取り決められるのが理想です。

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最初からルールを決めておけば、いざ出費が発生したときに揉めずに済みます。

一方、話し合いで合意できない場合や裁判所で判断を仰ぐ場合には、両親の収入に応じて費用を按分する考え方が一般的に用いられます。

具体的には、「実際にかかった費用から算定表で想定されている標準費用を引いた差額」を両親の経済力比例で分担する仕組みです。

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難しく聞こえるかもしれませんが、シンプルに言えば「収入の多い方が多めに負担する」イメージです。

負担例

例えば、私立高校の学費が年100万円、公立高校の平均的な学費(算定表に織り込み済み)が約25万9,000円だとします。

父親の年収800万円・母親400万円の場合、公立との差額約74万円を両親の収入割合に応じて分担すると、父親の負担分はおよそ48万5千円(月額約4万円)になります。

特別費用の約束事について

特別費用をめぐるトラブルを未然に防ぐために、事前の取り決めが何より大切です。

私が関わったケースでも、離婚協議書に特別費用の負担割合を明記していた家庭では、その後の揉め事が格段に少なくなりました。

例えば「子どもの医療費や進学費用が一定額を超えた場合は双方50%ずつ負担する」といった約束を交わしておけば、いざという時に慌てずに済みます。

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逆に、口約束のままだと「聞いてない」「そんな余裕はない」と反故にされるリスクが高まります。

それでも、離婚時にはなかなか将来の具体的な費用まで想定できないものですよね。

もし取り決めがなく子どもの特別な出費が発生した場合は、まず相手に誠意をもって相談してみてください。

それで解決しないときは家庭裁判所で養育費増額調停(特別費用の分担を求める調停)を申し立てる方法もあります。

公的な場で改めて話し合うことで、相手も真剣に向き合わざるを得なくなるでしょう。

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また、普段からメールやLINEで子どもの学習状況や健康状態を共有し、「将来的にこういう費用がかかりそうだ」と予告しておくことも有効です。

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