養育費の「特別費用」について弁護士が分かりやすく解説

養育費の特別費用

雨の音だけが響く金曜日、電話口でAさんのすすり泣く声が胸に刺さりました。

離婚後、シングルマザーとして懸命に働く彼女が「養育費だけじゃ足りない出費があるんです…」と震えるように打ち明けたのです。

私自身、養育費のトラブル現場に何度も立ち会ってきましたが、子どものための突然の大きな出費に親が直面する不安は痛いほど分かります。

特別費用」それは私たち弁護士が現場で幾度となく耳にするキーワードです。

焦る母親と入院費の請求

仙台市の病院の廊下でBさん(35歳)が頭を抱えていました。

小学3年生の息子が急性虫垂炎で緊急手術となり、治療費入院費20万円以上かかる見通しです。

こんな高額、元夫に頼めるんでしょうか?」と彼女は青ざめた顔で私に尋ねました。

ふと、自分が受け取っている月3万円の養育費を思い浮かべ、「これじゃ10ヶ月分を一度に払うようなものだ」と呟いたのです。

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養育費算定表で算出される標準的な額には、こうした突発的な医療費は含まれていません。

まさにこのようなケースで救済措置となるのが「特別費用」なのです。

特別費用とは、子どものために一時的に発生する大きな出費のことで、通常の養育費の内訳に含まれない費用を別途請求できる制度です。

例えば、急な手術費・入院費などは典型的な特別費用に該当します。

私はBさんに「領収書など証拠を揃えて、落ち着いて元夫に事情を説明しましょう」と声をかけました。

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彼女の瞳には、ほんの少し希望の光が宿ったように見えました。

憧れの私立校と学費の壁

春、新宿区に住むCさん(39歳)の娘が念願の私立中学校に合格しました。

Cさんは、娘の合格を、元夫に電話で報告すると「私立なんて聞いてない。学費なんて出せないよ!」と怒り混じりに拒否されたようです。

Cさんは悔しさで震えながら、「娘の夢を諦めるしかないのでしょうか…?」と私に相談に来ました。

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実のところ、養育費の算定表に基づく標準的な養育費額には、公立高校までの平均的な学費しか織り込まれていません。

私立中学・高校や大学の費用は「特別な事情」として扱われ、特別費用として別途負担を求める余地があります。

しかし問題は、相手方である父親がその進学に同意しているかどうかです。

家庭裁判所の審判例でも、養育費を払う側の親が進学を了承していた場合や、収入・学歴などから見て私立進学が不合理でない場合には、公立校の平均額を超える学費の一部を分担させる場合があります。

例えば平成27年4月の大阪高裁の事例では、離婚前に子の大学進学について夫婦で国立大学を視野に入れていた経緯などが考慮され、元夫に公立大学の学費相当額の3分の1を負担させました。

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一方で、今回のCさんのように相手が強硬に不同意の場合、法的に全額を請求するのは容易ではありません。

実際、平成29年の東京高裁では、子どもの私立大学進学に父親が反対していたため特別費用は認められず、代わりに養育費の支払い期間を大学卒業まで延長する判断がなされています。

このように結果が分かれるため、「どうすれば納得してもらえるの?」と不安になりますよね。

私はCさんに対し、「まずは、元夫の同意を得ず話を進めてしまった事のへ謝罪」次に、入学金や授業料の具体的な金額資料を揃え、「公立ではなく私立を選ぶ理由」を丁寧に伝えましょうとアドバイスしました。

また、公的データによれば公立と私立では教育費が年間で2倍〜5倍近く差が出ることもあります。

例えば高校では公立平均約28万円に対し、私立は約72万円と、年間約44万円もの開きがあります。

3年間では合計132万円もの差額です。

こうした現実的な数字を示すことで、元夫にも娘さんの進学にかかる負担感を理解してもらえるかもしれません。

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娘さんの未来のため、一緒にベストな方法を考えてみましょう」と伝えると、Cさんは静かに頷いてくれました。

悩ましい塾代の分担

京都市在住のシングルマザーDさん(28歳)は、中学生になる息子の塾代をめぐって元夫ともめていました。

月額1万円の進学塾に通わせたいと考えましたが、生活費で手一杯の養育費(月4万円)から捻出するのは厳しい状況です。

勇気を出して元夫に相談すると、返ってきたのは冷たい一言だったようです。

塾なんて贅沢だ。養育費の中でやりくりしてくれ

確かに、裁判所の算定表では塾や習い事の費用は特別には考慮されておらず、基本的には毎月の養育費で賄う前提になっています。

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裁判実務上も、塾代を追加で請求しても認められにくいのが現状です。

とはいえ、受験を控えた子どもの学力維持のために塾が必要なケースや、子どもに発達上の支援が必要で特別な学習サービスを利用する場合など、事情によっては例外的に認められることもあります。

私はDさんに「状況を踏まえてもう一度きちんと話し合ってみましょう」と提案しました。

例えば、塾の必要性と費用の内訳を書面にして示し、「この投資が息子さんの将来につながる」ことを冷静に伝えるのです。

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さらに、負担の公平性を数字で示す方法もあります。

仮に元夫の年収が400万円、Dさんが200万円だとすれば、収入割合はおよそ2:1です。

塾代1万円のうち2/3にあたる約6,600円を元夫、残りをDさんが負担するといった計算になります。

あなたにも無理のない範囲で協力をお願いしたい」と伝えたら、彼の態度が少し和らいだのです。

結果的に、彼は月々6千円程度なら支払うと約束してくれました。

もちろん全てのケースが円満にいくとは限りません。

それでも、諦めずに対話と工夫を重ねることで道が開ける可能性があるのです。

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Dさんは電話を切った後、ホッとした声で「これで息子に胸を張って勉強させられます」とつぶやきました。

特別費用の約束事について

特別費用をめぐるトラブルを未然に防ぐために、事前の取り決めが何より大切です。

私が関わったケースでも、離婚協議書に特別費用の負担割合を明記していた家庭では、その後の揉め事が格段に少なくなりました。

例えば「子どもの医療費や進学費用が一定額を超えた場合は双方50%ずつ負担する」といった約束を交わしておけば、いざという時に慌てずに済みます。

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実際、協議や調停で特別費用について取り決めをしておけば、後から相手が支払いを渋っても強制執行で取り立てることも可能です。

逆に、口約束のままだと「聞いてない」「そんな余裕はない」と反故にされるリスクが高まります。

それでも、離婚時にはなかなか将来の具体的な費用まで想定できないものですよね。

もし取り決めがなく子どもの特別な出費が発生した場合は、まず相手に誠意をもって相談してみてください。

それで解決しないときは家庭裁判所で養育費増額調停(特別費用の分担を求める調停)を申し立てる方法もあります。

公的な場で改めて話し合うことで、相手も真剣に向き合わざるを得なくなるでしょう。

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また、普段からメールやLINEで子どもの学習状況や健康状態を共有し、「将来的にこういう費用がかかりそうだ」と予告しておくことも有効です。

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