養育費は子供からでも親に請求できる?

養育費は子供からでも親に請求できる?

お母さんが言ってダメなら僕がお父さんに直接言えば、僕の学費を払ってくれるのかな…?」――2021年、大阪市の家庭裁判所で出会った、当時17歳の少年C君の言葉です。

彼の父親は離婚後蒸発し、中学生から養育費が一度も支払われていませんでした。

必死にアルバイトを掛け持ちする母親を見かねて、C君は震える声でつぶやいたのです。

弁護士
しかし、未成年の子供が自分で法的手続きを起こすことはできません。

日本の法律では、親は未成熟の子を扶養する高度な義務を負っています。

養育費を受け取る権利は子供自身に認められた正当な権利ですが、未成年者である間は親や保護者が代理人となって請求しなければならないのが現実です。

目の前に法律の壁が立ちはだかり、自分では動けないもどかしさに、C君の拳は震えていました。

お母さんを助けたいけど、ボクにはどうすることもできないの…?」と。

あなたなら、この時どう声をかけますか?

弁護士
とはいえ、子供の権利が消えてしまったわけではありません。

法律上、養育費の請求権は親権者ではなく子供に属する権利です。

だからこそ親権者である母親が代わりに声を上げ、養育費を求める意義は大きいでしょう。

民法877条1項では「直系血族(親子)は互いに扶養する義務がある」と明記されており、離婚して親と子が別居していても親の扶養義務は消えません。

にもかかわらず、未成年の子自身には訴える手段が限られる現実…これは子供にとって悔しく辛い状況でしょう。

私が現場で目にしたC君のように、「自分の将来なのに自分では守れないのか」と焦燥を抱く子もいます。

弁護士
こうした苦しみに寄り添い、親の義務を代わりに果たさせるのは周囲の大人の役目ではないでしょうか?

決意の18歳:子供自身が起こす反撃

子供が成年(18歳以上)になれば状況は一変します。

2022年4月の民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられ、高校卒業前後の年齢から子供自身が法的に行動できるようになりました。

大学進学の夢を諦めたくない」そんな強い決意を胸に、18歳になった子が親に養育費を直接求めるケースも現れています。

弁護士
例えば専門学校へ進学したいのに学資が足りない場合、子供本人が非監護親(別居している親)に対して不足分の支援を求めることが可能なのです。

実際によくあるケースとして、大学や専門学校の費用を巡り、子供から親へ支払いを請求する例があります。

私の事務所でも、18歳の青年が自ら相談に訪れ「父に大学の学費を請求して欲しい」と勇気を振り絞った事例がありました。

ふと、目に涙を浮かべながら「もう母一人に苦労をかけたくないんです…」と語った彼の横顔を思い出します。

では、一体どれほどの学費が子供の肩にのしかかっているのでしょう?

文部科学省のデータによれば、私立大学理系の場合で4年間の学費平均約542万円にも達します。

これは全国の大学の授業料等を調査し、年約135万円×4年約540万円という計算式で導き出された数字です。

弁護士
国公立大学でもトータルで約250万円以上は必要で、この金額を母子家庭が単独で捻出するのは簡単ではありません。

だからこそ、18歳を迎えた子供が「自分の未来は自分で守る」ために立ち上がるのは自然な流れと言えます。

相手の親に直接連絡して交渉する子もいますが、もし非監護親が支払いを拒否した場合には、成年に達した子供が養育費の支払いを求めて家庭裁判所に調停を申し立てることもできます。

一度決まった養育費であっても、その後の事情変更に応じて、金額の変更を求める調停を起こせるのです。

親にこんな請求をして憎まれないか…?」と不安になる気持ちもあるでしょう。

それでも、自分の将来のために声を上げる18歳の勇気は決して責められるものではありません。

弁護士
あなたが同じ立場なら、どう行動するでしょうか?

親の“養育費ゼロ”合意に隠された子の権利

養育費はいらない、と私が言ってしまったばかりに…」──2020年、東京都で離婚したAさん(35歳女性)は、元夫との関係が険悪になるのを恐れて養育費はいらないと離婚協議で約束してしまいました。

親同士の勝手な合意が、子供の未来を奪ってしまったのです。

当時幼かった娘は何も知らずに頷いていましたが、小学4年生になった今、進学塾に通いたいと言い出しました。

貯金を切り崩して暮らすAさんは、夜な夜な「どうしてあのとき養育費を断ってしまったのか…」と後悔に苛まれています。

弁護士
実のところ、Aさんのように「相手と関わりたくない」という理由で養育費の取り決め自体を避けたシングルマザーは珍しくありません。

ある調査では、離婚時に養育費の取り決めをしなかった母親の約半数が「相手と関わりたくなかった」を理由に挙げています。

確かに、暴言やモラハラに苦しめられた過去があれば、二度と元配偶者と顔を合わせたくないと感じるのも無理はないでしょう。

あなたなら、険悪な元配偶者にお金の話を切り出す勇気が持てますか?

しかし、親同士が交わした「不払いの約束」であっても、それによって子供の権利が奪われることはありません。

法律上、そのような合意は父母間では有効だとしても、「子供には効力が及ばない」と解釈されます。

弁護士
父母が「養育費ゼロ」と決めても、子供本人の扶養請求権(養育費請求権)まで勝手に放棄できるものではないのです。

そんな約束は無効だ」と子供側から主張できる余地が法律に残されています。

実際、民法上も親の合意だけで子の扶養に関する事項を根本的に変更することは許されないと考えられています。

つまり、Aさんの娘さんには本来自分の父親に扶養を求める権利があるのです。

この権利が守られなければ、生活に困窮したり進学を諦めざるをえなくなるのは子供本人となってしまいます。

それではあまりに理不尽ではないでしょうか?

では、一度「養育費はもらわない」と決めてしまったら一切請求できないのかというと、決してそんなことはありません。

弁護士
状況が変わった時は、約束を見直すチャンスです。

例えば子供の進学や成長に伴って教育費が新たに必要になった場合など、「養育費なし」の合意後に事情の変更があれば、その合意自体を変更して適切な養育費を請求することができます。

家庭裁判所に改めて調停を申し立て、子供のために必要な費用負担を求めることは可能なのです。

実際、平成29年の家庭裁判所審判では、私立大学医学部に進学した長男に対し、父親が既存の養育費に加えて高額な学費を負担すべきとの判断が示されています。

弁護士
このように、たとえ最初に養育費なしと決めてしまっても、子供の将来を守るための手段は残されています。