「元夫が養育費を払ってくれない…弁護士に頼みたいけどお金がカツカツ。せめてその弁護士費用を相手に請求できないの?」——そんな悩みに胸が締めつけられる思いです。
養育費未払いに苦しむ方々の相談を日々受け、あなたの苦悩に何とか力になりたいと感じています。
それでも現実には法律の壁がズシリと存在するのも事実です。
こちらでは、「養育費のためにかかった弁護士費用を相手に請求できるのか?」という切実な疑問に対し、私自身の経験や判例・法律の知見を交えてわかりやすく解説します。
養育費の弁護士費用を相手に請求できない現実
「相手が払うべきお金を払わないせいで、こちらが弁護士費用まで負担するなんておかしい」という怒りはもっともです。

現在の日本の制度では弁護士費用の敗訴者負担(負けた側が相手の弁護士費用を支払う仕組み)は認められておらず、基本的に各自が自己負担するのが原則です。
つまり、養育費を請求するために裁判や調停を起こして勝訴したとしても、その過程で払った弁護士費用を相手に請求することはできません。
裁判で勝った場合でも、判決で認められるのは、未払い養育費本体や遅延損害金(延滞利息)などに限られ、弁護士費用は含まれないのです。
では、裁判費用をまったく相手に負担させられないのかというと、厳密には一部例外があります。

しかし弁護士費用は「訴訟費用」には含まれず、別途損害として請求しなければなりません。
残念ながら、養育費のような金銭の支払い義務(債務不履行)の場合、裁判所は弁護士費用を損害とは認めないのが通常です。
実際、2021年1月22日の最高裁判決でも「売買代金の不払いといった金銭債務の不履行では、弁護士費用を相手に請求することはできない」と判断されています。

なぜ弁護士費用を請求できないのか
「どうしてそんな法律になっているの?」と疑問に思いますよね。
背景には、日本の司法制度の考え方があります。
海外では訴訟で勝った側の弁護士費用を負けた側に負担させる国もありますが、日本では先述の通りそのような敗訴者負担制度は採用されていません。

そのため「相手が悪いんだから費用も払わせたい」という気持ちはもっともですが、法的には認められにくい状況です。
また、弁護士費用を損害(被害額)として認めるかどうかはケースバイケースで、主に不法行為か債務不履行かによって異なります。
交通事故や名誉毀損といった不法行為(故意・過失による権利侵害)では、被害者が権利を守るためやむなく弁護士を頼んだ費用の一部を損害賠償に含めることが判例上認められており、通常その額は実際の弁護士費用全額ではなく認容額(裁判で認められた損害額)の約1割程度とされています。
例えば、相手のDVや不倫が原因で慰謝料300万円の支払い命令が出た離婚裁判では、その10%にあたる30万円を弁護士費用相当分として加算し、合計330万円を請求できる場合があります。
このように「相手側に一方的な非がある場合」には裁判所も一定の配慮を示します。
しかし養育費の未払い自体は「不法行為」ではなく、法的には債務不履行(約束したお金を払わないこと)に分類されます。

弁護士費用を負担せずに済む支援策は?
「それでは泣き寝入りするしかないの?」と落胆されたかもしれません。
確かに現行法では養育費のための弁護士費用を直接相手に請求することは困難です。
しかし、経済的負担を軽減する制度や工夫が存在します。

法テラスの利用
日本司法支援センター(法テラス)を利用する方法です。
収入要件を満たせば30分×3回までの無料相談が可能で、必要に応じて弁護士費用の立替払いや分割無利子払いを利用できます。
所得が低い場合には立て替えた弁護士費用の返済が免除されるケースもあり、例えば一定の収入以下のひとり親世帯なら、弁護士費用の実質負担ゼロで法的措置をとれることもあります。

国の支援制度(2024年改正)
2024年度から養育費未払い対策として国の支援策が拡充されました。
中学生以下の子どもがいる生活困窮世帯を対象に、法テラスが立て替えた弁護士費用の返済が全額免除される制度がスタートしています。

本人訴訟の活用
弁護士に頼らず自分で訴訟を行う「本人訴訟」という選択肢もあります。
最近では養育費未払いに悩む親同士が知識を共有し、必要書類の作成を支援するオンラインコミュニティも登場しています。
実際、「費用が苦しいので自分でやってみよう」という方も増えているようです。

結論
養育費の未払いに悩む親にとって、「弁護士費用を相手に請求できたら…」という切実な思いは痛いほど理解できます。
しかし今の法律のもとでは、その願いを直接叶えるのは難しいのが現実です。
法テラスの制度や社会の支援、そして私たち弁護士の知恵を借りることで、経済的なハードルを越えていくことは十分可能です。
養育費は子どもの未来を守る大切なお金です。
だからこそ、泣き寝入りせず一歩を踏み出すあなたを、私は心から応援したいと思います。
