払ってくれない養育費を相手の親に請求できる?

払ってくれない養育費を相手の親に請求できる?

元配偶者が取り決めした養育費を払ってくれません。
その相手の親に養育費を請求できるのでしょうか?

結論から言えば、原則として祖父母に孫の養育費支払い義務はありません。

養育費はあくまで親の扶養義務生活保持義務)に基づくものであり、親が自分と同程度の生活を子に保障するための支払いです。

そのため法律上、祖父母は孫に対して養育費を支払う義務を負わないとされています。

言い換えれば、祖父母が自主的に応じてくれない限り、「法的に強制する方法はない」のです。

それでも孫が困っているのに、裕福な祖父母が知らん顔なんておかしい!」と感じる方もいるでしょう。

しかし、たとえ祖父母が経済的に余裕たっぷりでも法的結論は変わりません。

仮に祖父母にも養育費支払い義務があるとすれば、祖父母は複数いる孫全員に自分と同程度の生活をさせる必要が生じます。

それでは負担が重すぎて現実的ではない、というのが法律の考え方なのです。

実際、私が対応したケースでも「法的に支払義務はありません」と説明した途端、依頼者の女性は絶句しました。

どうしても祖父母に払わせる方法はないんですか?」と詰め寄られ、私も胸が痛みましたが、これが厳然たる法律の壁なのです。

もっとも、「例外的に祖父母に養育費を請求できる場合はないのか?」という声もあるでしょう。

実は全く道がないわけではありません。
次では、そのわずかな希望についてお話しします。

わずかな希望:祖父母から扶養料を受け取れる可能性

法律の原則は冷たいようですが、状況次第では祖父母から養育費相当の支援を得られる可能性があります。

大きく分けて2つのルートがあります。

祖父母が連帯保証人になっている場合

これは極めてレアなケースですが、離婚時の取り決めにおいて、祖父母が養育費支払いの連帯保証人となっている場合です。

もし離婚協議書や公正証書の中で、夫の両親が連帯保証人として署名・押印していれば、夫が払えない(払わない)とき祖父母が代わりに支払う法的義務が生じます。

つまり、「祖父母だから」という理由ではなく契約上の保証人としての責任です。

このような契約が成立している場合、祖父母も債務者と同様に養育費を支払わねばなりません。

反対に、連帯保証人になっていなければ祖父母に支払い義務は一切ありません。

私の経験上、祖父母が保証人になるのは父親が未成年だったケースなどごく稀で、通常はまずありません。

心当たりがなければ、この方法は現実的ではないでしょう。

民法877条に基づく扶養請求(扶養料の支払い)

もう一つのルートがこちらです。

日本の民法第877条1項では「直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある」と規定されています。

祖父母直系血族しかも二親等)ですから、法律上は互いに扶養義務関係にあります。

つまり場合によっては祖父母にも孫を扶養する義務、平たく言えば、生活費を援助する義務が生じうるのです。

ただし、ここで言う祖父母の扶養義務は親のそれと性質が異なります。

親の養育費負担が「自分が苦しくなっても子に自分と同等の生活を維持させる義務生活保持義務)」であるのに対し、祖父母の扶養義務は「自分に経済的余裕がある範囲で最低限の生活援助をすればよい義務生活扶助義務)」です。

言い換えれば、祖父母に余力があり、孫の生活が放置できないほど困窮している場合に初めて発生する義務だということです。

具体的には、祖父母自身の生活費や他に扶養すべき家族(たとえば祖父母から見て他の子や孫、要介護の親など)への支援を差し引いても、なお余裕がある場合に限り、孫を扶養すればよいと法律は考えます。

裏を返せば、祖父母にも自分たちの生活がありますし、ほかに助けねばならない人がいれば孫まで手が回らなくても責められないのです。

この生活扶助義務に基づく扶養料の支払いは、養育費とは少し異なる性質のものです。

扶養料はあくまで「余裕があるなら助けてあげてほしい」という範囲の義務なので、請求できる額も孫が最低限生活できるために必要な範囲に限られるでしょう。

例えば、私が担当したケースでは、母子家庭で生活保護寸前の収入しかない親子に対し、祖父が月3万円の扶養料の支払いを承諾してくれた例がありました。

もちろん3万円ですべて賄えるわけではありませんが、「少しでも助けになれば…」という気持ちでお孫さんを支えてくださったのです。

扶養料の額は双方の経済状況必要性に応じて決まります。

仮に祖父母が高収入でも、母子家庭がそれなりに生活できているなら請求は認められないでしょう。

また祖父母が年金暮らしでギリギリの場合など、扶養料まで負担させるのは難しいかもしれません。

さらに注意したいのは、祖父母とひと口に言っても4人いることです。

離婚しても子から見れば、父方母方それぞれ祖父母がいます。

誰にどの程度の扶養義務を負わせるかは、本来親族間で話し合うものですが、話がまとまらなければ家庭裁判所が決めることになります。

実務上はまず父方(支払うべき元夫側)の祖父母に請求を検討するケースが多いでしょうが、場合によっては母方の祖父母も含め、子を扶養できる親族全体で負担を案分するよう調整される可能性もあります。

誠意と作戦:祖父母に協力を仰ぐステップ

では、実際に祖父母に扶養料でもいいから援助してもらいたいと考えたとき、どのようなステップを踏めば良いでしょうか?

私が現場で培った経験から、ポイントをお伝えします。

① まずは話し合いの場を持つ(誠意を示す)

いきなり裁判所に駆け込む前に、可能であれば直接祖父母に相談してみることをお勧めします。

この際、感情的に責め立てるのは逆効果です。

祖父母もあなたの元配偶者の親とはいえ、孫にとっては大切なおじいちゃん・おばあちゃん。

ここはひとつ、子供のために頭を下げるくらいの気持ちで接してみましょう。

例えば、「○○が最近すごく背が伸びて食費もかさむんです。それでも元夫さんからの養育費が止まってしまい、本当に困っています…」と現状を丁寧に伝えてみます。

ポイントは、あくまで孫の健やかな成長のためであることを強調することです。

決して「あなたの息子が払わないから悪い!」と責めてはいけません。

私のクライアントだったCさんは最初、義父母に怒りをぶつけてしまい関係が悪化しました。

後日改めて孫の写真や近況を手紙にしたためてお願いしたところ、義母さんの心が動き、後日話し合いの席につけたのです。

孫のためなら協力するわよ」といった言葉を引き出せれば理想的でしょう。

なお、話し合いに応じてもらえず門前払いされるケースも残念ながらあります。

その場合は無理に押し掛けず、次のステップに移りましょう。

② 家庭裁判所で扶養請求の調停・審判を行う

直接の交渉が難しかったり、話し合いで折り合いがつかない場合、家庭裁判所に扶養料の支払いを求める調停または審判を申し立てる方法があります。

これは子どもの法定代理人である母親(あなた)が申し立て人となり、祖父母を相手方として行う手続きです。

調停になれば、調停委員という第三者が間に入ってくれるので、直接言いにくい経済状況の話もしやすくなります。

実際の調停では、祖父母側の収入や資産、そして母子家庭側の収入・支出状況など細かくヒアリングされます。

私が代理人として同席した調停でも、通帳の記帳を示しながら「毎月これだけ赤字で貯金を切り崩しています」と説明し、一方で祖父母の年金額や預貯金も資料で確認しました。

その上で調停委員から解決案(例えば「月○万円を扶養料として支払ってはどうか」等)が提示され、双方が合意できれば調停成立です。

調停で合意に至れば、その内容を公的に残すことができ、後々の強制執行も可能になります。

一方、どちらかが納得しない場合は、自動的に審判裁判官の判断)に移行し、最終的には裁判官が金額や支払い方法を決定します。

審判で祖父母に一定額の支払いを命じる判断が下されれば、裁判所の審判書が得られますので、法的強制力も期待できます。

③ 専門家に相談する

可能なら、早めに弁護士など専門家に相談することも検討してください。

第三者を立てることで、祖父母も感情的にならず冷静に対話しやすくなる利点があります。

また弁護士であれば、祖父母の経済状況を調査し「本当に扶養料を請求できるケースか」を見極める手助けもできます。

表面上裕福そうに見えても実は余裕がない」場合もありますし、逆に隠れた資産が見つかることもあります。

プロの目線で状況を整理し、交渉のシナリオを立ててもらうだけでも心強いのではないかと思います。

私も依頼者から「自分一人では義父母に何をどう言えばいいかわからなかったけど、一緒に交渉の場についてもらえて安心した」と言われたことがあります。

法的手続きや書類準備もサポートしてもらえますし、精神的負担もかなり軽減されるはずです。

最後に注意点として、祖父母へのアプローチはあくまで礼節を持って行いましょう。

怒りや焦りから突然押しかけたりすれば、大きなトラブルに発展しかねません。

悲しいことに、以前あった相談では、お母さんが激昂して義実家に怒鳴り込んでしまい、祖父母側が警察を呼ぶ事態になったケースもありました。

子供のために頼る立場」であることを忘れず、丁寧な対応を心がけてください。

誠意をもって祖父母に相談する事で解決できる場合もあります

祖父母から任意の支援

法的に祖父母には養育費を支払う義務はありませんが、場合によっては祖父母が孫のために自発的に経済的な援助を申し出てくれることもあります。

これはあくまで好意や善意に基づくものであり、強制することはできませんが、誠意をもって相談することで援助を得られる場合もあります。

しっかり事情を説明すれば、場合によっては、祖父母が自分の意思で養育費を代わりに支払ってくれる可能性もあります。

しかし、これも法的な義務ではなく、祖父母が自発的に行ってくれるものです。強制できるものではありません。

相手の親(祖父母)に養育費を請求することは法的には難しいですが、話し合いなど、他の方法で解決する場合もあります。

相手との間で交渉が難しい場合や、どの手続きを取れば良いか迷った場合は、当事務所の無料相談をご利用下さい。

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