「養育費を払わないなら子どもに会わせない!」と言いたくなるお気持ちは痛いほど分かります。
しかし、結論から言えば、そのような要求は法的には認められないのです。
養育費と面会交流は、それぞれ制度の根拠も手続きも異なる、全く別個の問題として扱われます。
法律上、養育費は親が負う「義務」(民法760条・766条)であり、面会交流は親子に認められた「権利」(民法766条1項)です。

また面会交流は子どものための制度であり、親が自分の判断でその機会を奪うことは許されません。
子どもが両親から愛されていると実感し、心安らかに成長するために設けられた大切な場なので、金銭トラブルを理由に断ち切るべきではないと考えられています。

面会交流が養育費支払いに与える影響
「面会なんてさせるだけムダじゃないの?」と感じる方もいるでしょう。
実のところ、面会交流を続けることがプラスに働く場合もあります。
専門家によれば、非監護親が子どもと交流できない状況になると、養育費を払わないことへの罪悪感や子どもの成長を喜ぶ気持ちが薄れ、支払い意欲が一層減退してしまう恐れがあるそうです。
裏を返せば、子どもと会う機会があれば「払わなくては」という良心や「成長を支えたい」という親心が刺激され、態度が軟化する可能性も否定できません。

Aさんは当初「お金も払わない相手に会わせるなんて悔しい」と苛立っていました。
それでも「子どものため」と心を鬼にして、月に一度の面会交流を続けたのです。
公園のベンチで離れて暮らすパパに娘さんが「テストで100点取ったよ!」と嬉しそうに報告するたび、Aさんの胸には悔しさと安堵が入り混じる複雑な思いが広がりました。
ところが数ヶ月ほど経つと、元夫の態度に変化が生じます。
娘の成長に触れるうちに父親としての責任を再認識したのか、滞っていた養育費の一部を少しずつ支払い始めたのです。
Aさんは驚きましたが、同時に「会わせて良かった」と涙を浮かべていました。
このように面会交流を絶たずに繋ぎ留めておくことで状況が好転する可能性もあります。

面会交流を拒否したらどうなる?
「払わない相手に会わせるなんて不公平だ!」と感じるのはもっともです。
それでも、養育費未払いを理由に一方的に面会交流を拒否すれば、法律上は、あなたのほうが不利になりかねません。
面会交流は子の福祉に反する特別な事情がない限り拒否できない建前であり、感情に任せた報復行動には、然るべきペナルティが科される可能性があります。

主なものを挙げます。
履行勧告
家庭裁判所が「お子さんを会わせてください」と求める通知を出す制度です。
費用もかからず手続きも簡単なため、相手が裁判所に申出ればすぐ勧告書が届きます。

間接強制
履行勧告でも従わない場合、裁判所は間接強制というペナルティを科すことがあります。
簡単に言えば「面会交流を実現しないとお金を払え」という命令です。
例えば「約束通り会わせない場合は一回につき○万円を支払え」といった内容の決定が下ることもあります。

損害賠償(慰謝料)
悪質な面会拒否が続くと、相手から損害賠償請求を起こされる可能性もあります。
実際に、静岡地裁の判決で4年間の面会拒否に対し500万円の慰謝料が認められたケースもあります。

実際、相談者Bさんも「払わない人に子どもを渡せない」と独断で面会交流を止めてしまい、相手からすぐに調停を起こされた一人です。
家庭裁判所からは早々に履行勧告が出され、それでも拒否を続けたBさんは審判の場で裁判官に厳しく諭されました。
結局Bさんは不本意ながら面会再開に応じることになり、「こんなはずじゃなかった…」と肩を落としていました。

面会交流を拒否できる例外
ただし、面会交流を制限または拒否できる場合があります。
それは、「子供にとって危険な存在」である場合や、「面会交流が子供の心身に悪影響を与える」と認められた場合です。
例えば、親が子供に対して暴力を振るったり、子供を精神的に追い詰めたりする恐れがある場合には、家庭裁判所の判断で面会交流が制限されることがあります。
そこで、養育費の未払いだけを理由に面会交流を拒否することはできません。

結論
結論として、養育費が支払われないことを理由に面会交流をさせないという主張は認められません。
養育費は親の義務で、面会交流は親子の権利という別個のもの。
両者は交換条件にはならず、親が勝手に放棄できないとされています。
面会交流を断たれると相手の罪悪感や喜びが薄れ、養育費の支払意欲が減退するおそれがあります。
面会交流は子の福祉のために行われるもので、正当な理由がなければ拒否できません。
養育費を支払わない相手には、調停など裁判手続きを利用して支払いを求めることができます。
