養育費の強制執行をした場合のデメリットはある?

養育費の強制執行をした場合、デメリットはある?

支払いを約束したはずの養育費を払ってもらえなければ、「強制執行するしかないのか?」と考える方もいると思います。

しかし一方で、「強制執行なんてしたら逆にデメリットがあるのでは?」と不安に感じている方も多いでしょう。

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こちらでは、養育費の強制執行に踏み切る際のデメリットについて解説したいと思います。

複雑な手続きに戸惑う苦労

強制執行の手続きの複雑さは、受け取る側(請求者)にとって最初のハードルです。

自分一人で一から手続きを進めることも不可能ではありませんが、必要書類を集めたり決まった形式で申立書を作成したりと、やるべきことが山積みです。

また、法律の知識がない一般の方が独力で進めるのは相当な時間と労力を要します。

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それでも諦めずに勉強して手続きを踏む方もいますが、現実には途中で挫折してしまうケースも少なくありません。

では弁護士に頼めば簡単かというと、確かに手続き自体は専門家に任せられるぶんスムーズになります。

しかし弁護士に依頼する場合は費用の問題が出てきますし、「まずは自分でやってみたい」という人にとって手続きの難解さは大きなストレスでしょう。

強制執行の申立てには、債務名義に基づく執行文の付与が必要な場合があったり、差し押さえる財産の種類に応じて申立て書式が異なったりと専門的なポイントが多々あります。

とはいえ、一度しっかり手順を踏めば決して不可能ではありません。

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時間をかけてでも自力で手続きを行うか、費用をかけて専門家に任せるか、悩ましいところですね。

相手の財産が不明でイライラ…情報収集の壁

強制執行を申し立てるには、「どの財産を差し押さえるか」をこちらで特定して申立てる必要があります。

ここで大きな障害となるのが、相手の財産情報が分からない場合です。

例えば相手の銀行口座の銀行名・支店名が分からなければ預貯金を差し押さえる申立てはできませんし、勤務先が不明なら給与を差し押さえることもできません。

申し立てをすれば裁判所が相手の財産を調べてくれるのでは?」と期待しがちですが、実際には申立人であるあなた自身が財産を調査・特定しなければならないのです。

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とはいえ近年、この財産調査はかなり改善されつつあります。

2020年4月施行の改正民事執行法によって、強制執行時の財産開示手続や第三者からの情報取得手続が充実しました。

例えば債権者(あなた)は裁判所を通じて、公的機関金融機関等から相手方の勤務先や預貯金口座の有無を照会できる制度が新設されています。

さらに、裁判所の財産開示命令を無視したり虚偽の申告をした相手には「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰も科せられる可能性があります。

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このように法律の後押しで以前より相手の財産を把握しやすくなったとはいえ、最初の情報の手がかりをつかむのは依然としてあなたの役割です。

住所や勤務先がまったく分からない相手の場合、探偵業者に所在調査を依頼したり、共通の知人に尋ねるなどの地道な情報収集が必要になるかもしれません。

情報が得られるまで強制執行の手続きは進められないため、その間も未払いが続くことになり焦燥感が募るでしょう。

しかし、焦るあまり事前に相手に「どこの銀行使ってるの?」「今どこで働いてるの?」などと直接聞いてしまうのはNGです。

強制執行の動きを相手に察知されると、貯金を他の口座に移したり現金で隠したりされるリスクがあります。

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財産の差し押さえは極秘裏に進めるのが成功のポイントと言えます。

空振りリスクに落胆…回収できない可能性

晴れて差押命令を申し立てても、「実際にお金を取り立てられるか」はまた別問題です。

強制執行には空振にに終わるリスクもあります。

例えば「給与差し押さえ」を行ったものの、肝心の相手が会社をすでに辞めてしまっていたら、その給与債権は存在しませんから、一円も回収できずに終わってしまいます。

あるいは、相手が差し押さえ開始後に退職してしまう場合も考えられます。

その場合、せっかく毎月給与から天引きして養育費を回収できていても、退職と同時に支払いはピタリと止まってしまうのです。

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相手が転職した場合は、新たな勤務先を突き止めて改めて差し押さえ手続きをやり直さねばなりません。

2020年の法改正で第三者からの情報取得手続きを利用すれば転職先調査は以前より容易になったとはいえ、それでも再度の申立てや書類作成など手間は増えます。

また、預貯金を差し押さえた場合でも空っぽの口座では意味がありません。

差押命令が金融機関に届いた時点で、その口座残高がゼロだった…ということも起こりえます。

この場合、一度は手続きをしたものの結果的に回収額ゼロで、手続きにかけた労力だけが無駄になってしまいます。

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さらに困ったことに、強制執行を受けた相手が開き直ってしまう場合もあります。

本来であれば強制執行を経験すれば懲りて「今後は遅れずに払おう」と反省してくれるのが理想ですが、現実には「こんな嫌な思いをさせられるなら、いっそ逃げてやろう」と逆恨みし、さらに養育費支払いから逃れる策を講じようとする人も残念ながら存在します。

例えば、銀行口座を差し押さえられたのを機に現金主義に切り替えて口座にはお金を置かなくなる、勤務先にバレたのを嫌がってフリーランスに転向してしまう等、極端な行動に出るケースも考えられるのです。

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強制執行によって確実な支払いを得られる半面、このような相手の報復的な逃げ腰リスクが生じる点も見過ごせません。

ワンポイント

給与の差押えは強力だが限界もある!

給料差し押さえは将来分の養育費にも継続効力が及ぶため有力な手段ですが、法律上差し押さえ可能なのは手取り額の2分の1までという制限があります。

相手の収入が低かったり他の借金も抱えている場合、毎月十分な額を回収できない可能性もある点は覚えておきましょう。

心理的対立でギクシャク…親同士の関係悪化

強制執行を行うことは、相手方との心理的な対立を深める引き金にもなりがちです。

養育費を支払わない相手が悪いのは当然ですが、強制執行という強硬手段を取れば多かれ少なかれ感情的なもつれは避けられません。

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実際、預金や給与を差し押さえられると相手の生活は一変します。

勤務先には裁判所から差押命令が送達されるため、会社の経理担当者や上司にまで養育費滞納が知られてしまいます。

会社からクビにされることは通常ありませんが、人によっては職場に居づらくなって退職してしまうケースもあるでしょう。

そうなれば、回収はまた振り出しに戻ってしまいます。

また、面会交流子どもと非監護親との面会)についても影響が出るかもしれません。

法律上、養育費を支払っていないこと自体を理由に面会を拒否するのは認められませんが、現実には「お金も払わないのに子どもに会わせろなんて図々しい」と感じる親もいるかもしれません。

強制執行にまで至るということは相当長期間不払いが続いた証でもありますから、そこまで関係が悪化した元夫婦間で円滑に子どもの受け渡しや連絡ができるかというと、かなり難しいのが実情です。

最近、面会の話になると何かと理由をつけて断られる…」と感じたら、養育費トラブルが心理的なしこりを生んでいる可能性があります。

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子どものためとはいえ、親同士の信頼関係が損なわれてしまうのは避けたい事態ですよね。

もちろん、養育費を払わず親としての義務を果たさない相手に非があるのは明白ですから、あなたが後ろめたさを感じる必要はありません。

むしろ子どもの権利を守るために毅然とした対応を取るのは正当な行動です。

それでも、今後も子どもを介して関わりが続く元配偶者であれば、強制執行に踏み切る前に「この手段を使うことで相手との関係がさらに険悪になってしまう可能性」について一度考えておく価値はあります。

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必要であれば家庭裁判所の履行勧告・履行命令(無料で利用できる督促制度)を先に試してみるのも、有効かもしれません。

弁護士費用など金銭面の負担

強制執行を弁護士に依頼する場合、避けて通れないのが費用の問題です。

手続き自体は自分で行うより格段に楽になりますが、その分コストが発生します。

一般的な弁護士費用の相場として、養育費強制執行の依頼では着手金10万~40万円程度報酬金(成功報酬)は回収額の10~20%程度に設定されることが多いようです。

例えば100万円の未払い養育費を回収するなら、着手金20万円回収額の10%(=10万円)で合計30万円経費、といった具合です。

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もちろん事務所によって料金体系は様々ですが、大まかな目安として頭に入れておくと良いでしょう。

このように馬鹿にならない費用がかかるため、「強制執行してもし相手に財産がなかったら、弁護士費用を払うだけ損では?」と心配になるのはもっともです。

実際、万が一養育費を回収できなければ着手金や実費分がまるごとマイナスになってしまう可能性があります。

ただでさえ生活が苦しいひとり親にとって、これは頭が痛い問題ですよね。

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費用面のデメリットを和らげる方法もあります。

収入や資産が一定以下であれば、法テラスの民事法律扶助を利用して弁護士費用の立替え援助を受けられる場合があります。

立替えられた費用は後払いで月々5,000~10,000円程度ずつの分割返済が可能で、生活保護受給中なら返済が猶予・免除されることもあります。

この制度を利用するには資力要件がありますが、費用面が不安な方は一度法テラスや弁護士に相談してみると良いでしょう。

費用倒れが怖いから強制執行をためらっている」というケースでも、適切なサポートを受ければ一歩踏み出せるかもしれません。

なお、自力で手続きを行う場合でも、全くお金がかからないわけではありません。

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裁判所に支払う収入印紙代や郵便切手代(送達費用)などの実費が発生します。

結論

養育費の強制執行には以上のように様々なデメリット(手続きの煩雑さ、財産調査の負担、回収失敗のリスク、心理的対立、費用負担)が存在します。

しかし、だからといって泣き寝入りする必要はありません。

弁護士
デメリットを正しく理解し対策を講じることで、強制執行による不利益を最小限に抑えつつ、子どもの大切な権利を守ることは十分可能です。