養育費の先取特権について弁護士が分かりやすく解説

養育費の先取特権について弁護士が解説

養育費の先取特権とは?

先取特権」という言葉は聞きなれないかもしれませんが、ご安心ください。

専門的な用語ですが、意味はシンプルです。

先取特権とは、債務者養育費を払うべき人)の財産から他の債権者より優先して支払いを受けることができる優先的な権利(担保物権)の一種です。

つまり、養育費をもらう側(債権者)の立場から見ると、「相手の財産に対して真っ先に取り分を確保できる権利」だと言えばイメージしやすいでしょうか。

実は私たちの身近にも先取特権の例があります。

たとえば労働者の未払い給与の請求権は法律上先取特権が認められており、会社が倒産しそうなときでも従業員が他の債権者より優先して給料を取り立てられる仕組みになっています。

養育費の先取特権」は、この養育費版だと考えてください。

離婚後に養育費が支払われなくても、この権利のおかげで養育費請求者は相手の財産から優先的かつ迅速に養育費を回収できる可能性が高まるのです。

先取特権が画期的なのは、「強制執行のハードルが下がる」点にあります。

通常、誰かの財産を差し押さえて強制的にお金を回収するには、調停調書判決文公正証書といった債務名義が必要です。

しかし先取特権にもとづく回収の場合、法律上はそうした債務名義がなくても差し押さえが可能になるのです。

これまでは、元夫の支払い拒否に対し債務名義を取るまでに時間がかかりましたが、先取特権が使えれば、未払いが発生したその時点で速やかに相手の財産を差し押さえることも夢ではありません。

例えば、相手の給与口座や勤務先が分かっていれば、すぐにでも差押えの手続きを申し立てて毎月の給料から養育費分を引き抜く、といった対応が可能になるわけです。

これは大きな安心材料ではないでしょうか。

実際、民法改正により養育費債権に先取特権が付与されれば、調停や審判などの手続きを経ずに相手の財産からスムーズに養育費を取り立てられるようになるとされています。

私自身、この制度が導入されれば「まずは調停をしましょう」と時間をかけていた従来のやり方に比べ、依頼者の方により早く金銭的安心を届けられるだろうと感じています。

ふと、「これでようやく支払われない養育費に泣き寝入りしなくて済むかもしれない」と胸が熱くなりました。

さらに専門的な話をすると、養育費の先取特権は法律上「一般先取特権」というカテゴリーに属し、その中での優先順位も定められました。

民法306条により一般先取特権の間での順位が規定されていますが、今回の改正で養育費債権の先取特権は雇用関係の先取特権(未払給与など)に次ぐ第三順位に位置づけられました。

簡単に言えば、「養育費を払わない」という行為は法律上、給料未払いに匹敵するほど悪質だと評価されたわけです。

これは立法者からの強いメッセージであり、養育費の支払いがいかに子どもの生活に直結する大切な義務かが伺えます。

先取特権によって優先弁済を受けられる養育費の範囲は「子の監護に要する費用として相当な額」と定められており、全額が無制限に保護されるわけではありませんが、子どもの生活に必要な一定金額についてはしっかり守られる仕組みです。

変化への期待:新制度で何が変わる?

では、この先取特権を含む新しい養育費制度が導入されると具体的に何が変わるのでしょうか。

2024年(令和6年)5月17日に国会で成立し、同月24日に公布された改正民法では、先取特権の新設以外にも大きな変更点があります。

それが「法定養育費制度」の創設です。

法定養育費制度とは、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても法律で定められた一定額を請求できる仕組みのことです。

平たく言えば、「最低限これだけは支払うべき」という養育費の額を国が定める制度です。

例えば現在、養育費の金額は夫婦間の話し合いや調停で決めるのが一般的ですが、話し合いがまとまらないまま離婚が成立してしまうことも少なくありません。

そうした場合でも、改正民法の施行後は法律に基づいて、最低限度の養育費=法定養育費)を元配偶者に請求できるようになります。

これは離婚を急ぐあまり養育費の取り決めが後回しになってしまった場合や、相手に支払いを拒否され泣き寝入りしていた場合に大きな希望をもたらすでしょう。

法定養育費制度が導入されれば、今まで諦めていた方も未払い養育費問題が良い方向に進む可能性があります。

子育てに奮闘するシングルマザー・シングルファザーの方にとって、この制度は心強い味方になるはずです。

ここで皆さんが気になっているであろうポイントに触れておきます。

新しい制度ができても、結局払わない人は払わないのでは?」という不安です。

確かに、先取特権があっても相手に財産や収入がなければ回収は難しいですし、法定養育費の額以上の養育費が本来必要な場合には別途話し合いや裁判所の手続きで決め直す必要があります。

また、この改正法は2026年5月23日までに施行される予定であり、現時点ではまだ新制度は開始していません。

とはいえ、私は現場の弁護士として、この改正が「払わせにくい」状況から「払わせやすい」状況へ大きく舵を切る第一歩になると考えています。

先取特権法定養育費制度の組み合わせにより、未払いが生じてもすぐに法定額について差押えを申し立てることができるため、相手に「逃げ得」を許しにくくなるからです。

実際、私が過去に携わったあるケースでは、元夫が養育費未払いのまま財産を処分してしまい、いざ強制執行しようとしたときには回収する資産がほとんど残っていなかったことがありました。

この苦い経験から、私は「未払いと分かったら一刻も早く相手の財産に手を打つこと」の重要性を痛感しています。

新制度はそのスピード対応を可能にしてくれる点で画期的なのです。

それでも完全に不安が消えるわけではありませんが、「少なくとも泣き寝入りしなくて済む可能性が高まった」と思うだけで、気持ちがふっと軽くなる方も多いのではないでしょうか。

養育費確保のために今からできること

改正民法の施行まではもう少し時間がありますが、私たちにできる備えを今のうちに考えておきましょう。

まず、離婚前後の取り決めはできる限り文書に残すことを強くお勧めします。

公正証書で養育費の取り決めをしておけば、万一未払いになった場合でもすぐに強制執行が可能ですし、先取特権による差押えと合わせて確実性が高まります。

今さら元配偶者に公正証書を求めるのは気まずい…」という方もいるかもしれません。

それでも、将来のトラブル防止のため、弁護士など専門家の立ち会いのもとで合意内容を文書化することは大切です。

先取特権による差押えを実行する際にも、当事者間で作成した合意書(サインや押印のあるもの)が一つの証拠となります。

せっかく法律があなたの味方をしてくれるなら、その力を最大限に引き出せる準備をしておきたいですよね。

経済的に厳しく「今さら請求なんて無理かも…」と尻込みしていた方も、新制度の情報収集をしておきましょう。

さらに、未払いが続いて困っている場合は情報収集と専門家への相談をぜひ検討してください。

相手の勤務先や資産状況の情報は差押えの鍵になりますし、家庭裁判所には収入資料の開示を命じる制度も新設されました。

一人で悩みを抱え込まず、地域の弁護士会や役所が行っている相談窓口を利用したり、信頼できる弁護士に早めに相談したりすることで、取れる手段が見えてくるでしょう。

養育費を受け取っていない方へ

最後に、養育費の未払いで悩む皆さんにお伝えしたいことがあります。

どうか諦めないでください。

養育費はあなた自身のためだけでなく、何よりお子さんの未来を守る大切なお金です。

今回の民法改正は、その未来を守るための追い風になるでしょう。

もちろん法律が変わっても、現実には様々な困難がつきまとうかもしれません。

それでも、国が一歩を踏み出した意義は大きいです。

あなたの不安や悩みに寄り添い、私たち専門家も全力でサポートします。

一人で抱え込まずに、困ったときはいつでも声を上げてくださいね。

新しい制度を上手に活用し、お子さんの笑顔と輝く未来を一緒に守っていきましょう。

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